S・スマイルズ『自助論』

 竹内均訳、三笠書房《知的生きかた文庫》 2002年4月改定新版刊

 自立、自助の精神こそ原動力
 法律や制度だけでは、国は変わらない


 「天は自ら助けるものを助く」という有名な格言で始まる、19世紀英国の古典的な名著。自立、自助の精神こそ、人間を日々、進歩させる原動力であるとし、「法律を変え、制度をつくるだけでは、国家は変わらない。国民の心が変わらなければ、国の変革も功を奏さない」―と、語りかけている。

 貧困や困難と戦い、発明や発見、芸術の創造、新事業に成功した人の生き方、仕事ぶりが、生き生きと語られ、学校時代には成績の芳しくなかったニュートンやワット、目立たない生徒だったナポレオンといった興味深いエピソードが、ふんだんにちりばめられ、読む者をあきさせない。

 日本では明治4年(1871年)、中村敬宇訳により『西国立志編』として出版され、福沢諭吉の『西洋事情』と並ぶ空前のベストセラーとなった。維新の新時代に身構える青年たちに、自立を軸とする新しい生き方を鮮烈にアピールする書であった。中村は幕末に派遣留学生の監督役としてイギリスに1年半、滞在。幕府が倒れて帰国する船中で、英国の友人からお別れに贈られた原著を熟読し、日本に戻ってすぐ刊行した。

 現代の英国では、ほとんど忘れ去られているのに、日本では連綿として読み継がれ、中村訳『西国立志編』が講談社学術文庫から、竹内均氏訳『自助論』が三笠書房「知的生き方文庫」(内容を圧縮、卓抜な見出しをつけた)から刊行されている。


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梅原猛『梅原猛の授業 道徳』

 朝日新聞社 2003年1月刊

「自利利他」の精神で生きる
 家庭の愛、職場の信頼が重要


 「日本人全体に道徳性がゆるんでいる。日本が滅ぶとしたら、その原因のひとつは、道徳心が失われていることにある」と、京都の洛南中学三年生に語りかけた、苦心の道徳授業。日本国憲法を裏付ける道徳が、いまだにできていないことに今の日本の不幸がある、という。

 道徳が人間のみにあると思うのは誤りで、動物にもある「母の愛」、母親が子供を思う「利他の心」が道徳の根源、と著者は考える。
 家庭では、母を中心とする自利利他の関係と、愛情を基礎とする夫婦関係とのバランスが取れているのが、よい家庭だ。会社や市民生活でも「自利利他」の精神で運営し、生きるべきだと強調する。

 人間として当然の戒律は「人を殺してはいけない」、「嘘をついてはいけない」、「盗みをしてはいけない」ということ。それに、傲慢になってはいけない、自棄(やけ)になってはいけない、いじめてはいけない、という三つの戒めも挙げている。

 家庭でいちばん大事な徳は愛、職場で重要な徳は信頼だと訴え、人生をよりよく生きるためには、一人ひとりが努力を重ね、創造の花を咲かせて人生を終えていくのがよい人生ではないか、と結んでいる。


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日野原重明『生きかた上手』

 ユーリーグ 2001年11月刊

 よい習慣がよい人生と健康をつくる
 家族とは、育んでいくもの


 聖路加病院理事長など数十の活動をこなす著者が、90歳を迎えた記念に出版した、生きかたと健康への道しるべ。医師として歩んできた人生を縦糸、哲学、芸術などの教養やさまざまの経験を横糸に、人生のヒントを多彩に織りあげている。

 著者は「習慣病」という言葉を早くから提唱してきた。生きる上でも、生活習慣の大切さを語り、「人生とは習慣である」とまで強調している。健康にもよりよい習慣が欠かせない。食事、運動、睡眠など日ごろの暮らしを見直し、自分の身は自分で守る、という考え方が基本である。

 「私はどんな朝もさわやかに目覚め、すがすがしいほどの健康感がある。それで十分、それこそが大切」と、医者の診立てよりも、自分で「健康だ」と思える感覚を大事にするよう呼びかける。医師にかかるときは短い診察時間を考えて、患者があらかじめ症状をメモにまとめ、話し上手になるよう注文をつけている。

 人はえてして自分の不幸には敏感すぎる。しかし「身のほどを知ること」、身のほどに合った希望のなかに生きることが「しあわせへの近道」である。ぬくもりを失った社会で、「家庭」のない子供が多い現状について「面倒でも手をかけなければ、家族は冷え切ってしまう」と注意を促し、家族とは「あるものではなく、育むもの」と力説している。

 「終わりよければすべてよし」。「ありがとう」という感謝の一言を残して死ぬことができれば、何よりの遺産になる―というのが、著者の“贈る言葉”のようである。


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ブライアン・マギー『知の歴史』

 中川純男監修、BL出版 1999年9月刊

 哲学は、文明が生み出した魅力的な財産
 学問を分類し、論理を体系化したアリストテレス


 哲学は芸術や科学と同じように、人類の文明が生み出した最も魅力的で、最も貴重な財産―と考える英国の哲学研究者による、みごとな哲学への招待。歴史的絵画や彫刻、挿絵、写真を駆使し、驚くほど分かりやすい文章で、系統的に説き明かしている。

 宗教や権威に頼らず、理性によって世界を根本的に理解しよう―人がそう思ったとき、哲学が誕生した。2500年に及ぶ西洋哲学の歴史を、日常語に近い言葉で語り、思想のひだにまで光を当てる。 哲学の源流とも言うべき古代ギリシャ世界には、全体の四分の一を当て、特に、“不滅の天才”アリストテレスに並々ならぬ敬意を表している。

 初期の哲学者たちが取り組んだのは、「宇宙は何からできているのか」「何が大地をまっすぐに支えているのか」ということであった。そこに「人はいかに生きるべきか」と主張するソクラテスが登場し、真実を探求するために、徹底した問答法を生み出した。

 プラトンが開いた学園アカデメイアで教育を受けたアリストテレスは、プラトンのイデア論を否定し、人間が経験できる現実世界こそ、思索の対象であると考えた。この現実世界で目の前に差し出された経験をしっかりとらえ、常にそこに立ち戻ることが大切である。なぜなら、探求の最終的な目的は、これらの経験を理解することにあるのだから―と。




☆ 「知の歴史」に紹介されたアリストテレスの思考様式は、当NPO法人の「7育5心3V法」誕生の考え方の基礎ともなっている。

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新渡戸稲造『修養』

 たちばな出版 2002年7月刊

 逆境にめげず、順境におぼれない
 修養は平凡な心がけから


 人生いかに生きたらよいかを、青年、庶民に向けて語りかけた大著。「車挽く人、柴刈る野の人」にも分かるようにと、家のお手伝いさんたちに原稿を読んで聞かせ、分かりにくいところは書き直した著者の誠意がうかがえる。

 当NPOの「7育」にも通じる「4つの貯蓄」を、生きる上での力として提唱。「体力」、「知力」、「徳」の貯蓄より先に、当時けなされがちだった金銭の貯蓄を冒頭に挙げた。当時のインテリの一部からは、東京帝大法科大学教授の筆者がなぜこんな通俗的な本を書くのかと、厳しい批判を浴びた。

 筆者の言う「修養」とは、貧乏であれ豊かであれ、逆境にいても順境にいても幸福を感じ、感謝の念をもって世渡りできる生き方を身につける方法を指す。基本は、日々の平凡な心がけを継続し、習慣にして、応用できるようにすること。あまり難しすぎる目標より、ちょっと難しい程度のことから始めるのがよい、という勧めにも普通の人への配慮がにじみ出ている。

 逆境に陥った人は「ヤケになりやすい」「他を怨みやすくなる」など5つの危険に落ち込みやすい。順境にある人も「傲慢になる」「人の恩を忘れやすい」など5つの危険にはまりやすい。逆境にめげず、順境におぼれない心得を、豊富な実話を交えて述べ、逆境と順境とは「人間万事塞翁の馬」のように、生き方により、環境により変転するという。

 自身の経験を織り込み、実践的ヒントをたっぷり盛り込んだ人生論である。
(ここでは、原文の表記を現代風に改めた、たちばな出版の新装本を基にした)




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ジェームズ アレン『「原因」と「結果」の法則』

 坂本貢一訳、サンマーク出版 2003年4月刊

 自分こそ、自分の人生の創り手
 思いとビジョンがいつか現実に


 一世紀も前の1902年に出版された、セルフコーチングの先駆けと言うべき本。著者は英国の作家で、できるだけ多くの人たちが「自分こそは自分の人生の創り手である」という“真実”に気づくことを願って、書いた。

 人は物事や人生がうまくいかないと、環境や運のせいにしがちである。しかし、自分の人格のなかに組み込んできた「思い」が、結果を運んできたのであり、「原因と結果の法則」が、いつも正確に機能し、努力の大きさにより結果の大小が決まる、というのが著者の思想だ。

 キーワードの「思い」が繰り返して登場し、「正しい思いは熟練技能です」という言い方もしている。しかし、「思い」も「目標」と結びつかなければダメで、理にかなった人生目標を心に抱き、その達成を目指すのが大切だという。

 ものすごく楽観的と思える文章を交えながらも、「犠牲を払うことなくしては、進歩も成功も望めない」など自己犠牲と自己改革の重要性をしっかり入れている。自己コントロールの粘り強い努力によって到達できる「穏やかな心」を、「美しい知恵の宝石」とほめたたえ、それが一人ひとりの究極的な目標、と語りかけている。



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中村天風『運命を拓く 天風瞑想録』および『天風誦句集(一)』

 『運命を拓く 天風瞑想録』講談社 1994年刊
 『天風誦句集(一)』財団法人天風会 1957年刊

 積極的な心で堂々と生きる
 信念こそ人生を動かす羅針盤


 天風は、波乱万丈の経験を経て修養指南の「天風会」を創設した異色の人物。修練会で情熱をほとばしらせて語った内容を、分かりやすくまとめた人生論がこれだ。天衣無縫の語り口で、生きる心得を展開する。

 天風は、日露戦争中にスパイとして活動した。カイロで出会ったヨガ哲学の聖者に連れられて、ヒマラヤの山村で修行。孫文の辛亥革命に参加して中華民国最高政務顧問になる。帰国後は銀行頭取などを務めたが、1919年(大正8年)、一切の地位を棄てて上野公園などの路傍に立ち、人生哲学の辻説法を始めた。原敬首相や東郷平八郎海軍元帥、戦後は松下幸之助、宇野千代、稲盛和夫氏ら多くの知名人を引きつけた数奇な思想家である。

 「人間の心で行う思考は、人生の一切を創る」、「心が積極的になれば、どんな苦難や苦痛に直面しても、喜びと感謝に振り替えることができる」という考え方が基本だ。心が積極的になるとは、心が「清く、尊く、強く、正しく」に向かうことをいう。

 信念こそ人生の羅針盤のようなものだとし、蒔いた種のとおりに花は咲く―という法則を重視する。これが人生に地獄と極楽、悲劇と喜劇をもたらす“手箱”である、という表現がユニークだ。

 言葉を大切にした人で、勇気づける言葉や喜びを与える積極的な言葉を使おう、と呼びかけた。哲学のエッセンスを、自身に言い聞かせる調子でまとめた朗誦用短文「誦句」を大切にし、修練会で「誦句を与える!」と言っては、会員の心身に染み込ませようとした。その誦句の代表的なものが、随所にはさみこまれている。

(参考)
 最も大切にした誦句の一つである「誓詞」は、佐藤安太理事長がライフマネジメントセンターの活動を始めるきっかけの一つとなった言葉でもある。(『運命を拓く』には入っていない)

「誓 詞」
 今日一日 怒らず 怖れず 悲しまず、
正直 深切 愉快に、
力と 勇気と 信念をもって 自己の人生に対する責務を果たし、
恒に平和と愛とを失わざる 立派な人間として活きることを、
自分自身の厳そかな誓とする。



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(学術研究員 長谷川隆)



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